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カスハラから従業員を守る|事業主に求められるカスハラ防止策②

カスハラから従業員を守る|事業主に求められるカスハラ防止策②

※カスハラから従業員を守る|事業主に求められるカスハラ防止策①は こちら

2024年5月には、自民党のプロジェクトチームがカスタマーハラスメント対策強化の提言案をまとめました。
従業員保護策を事業主に義務づける法整備に言及しているため、厚生労働省はこれを踏まえ法改正を調整すると考えられます。

今回は、事業主が講じるべきカスタマーハラスメント対策にはどのようなものがあるかを見ていきましょう。

1.カスタマーハラスメントにおける従業員保護の動き

厚生労働省が告示する「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して管理上講ずべき指導等についての指針」では、社内でのパワーハラスメントに加えて、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、従業員の就業環境が害されないよう、事業主は雇用管理上の配慮をすることが望ましいとしています。

2.具体的に事業主に求められる対策

まず、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備としてできることはどのようなものがあるでしょうか。

(1)事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発

2024年4月にJR東日本は、カスタマーハラスメントに対する方針を代表取締役社長名で公表しています。
カスタマーハラスメントの定義、対応姿勢、取組内容を組織のトップが明確にすることで、事業主の姿勢がうかがえます。また、従業員を守るため、従業員の対応の在り方を周知・啓発することで、従業員としても対応に迷わず、働きやすさに寄与することが期待されます。

(2)従業員(被害者)のための相談対応体制の整備

相談対応体制の整備とは、カスタマーハラスメントの被害に遭った従業員が相談をするための社内の対応者を決める、または社内の相談窓口を設置する等し、従業員に周知をすることです。相談内容、状況に応じて適切に対応できるように、人事労務部門、法務部門、外部関係機関(弁護士等)との協働が有用と考えられます。既に整備しているパワーハラスメントやセクシャルハラスメントについての相談窓口を活用することも考えられます。

(3)対応方法、手順の策定

現場でカスタマーハラスメントを受けた際の初期対応の方法、手順、内部手続(社内での報告・相談、指示・助言)の方法、手順等を定めておきます。
慌てずスムーズに対応できるよう、ハラスメントの行為別(例:時間拘束型、暴言型、SNS/インターネット上での誹謗中傷型)や現場対応か電話対応か等、類型ごとに整理しておくと安心です。

(4)社内対応ルールの従業員等への教育・研修

事業主は、カスタマーハラスメントの定義、判断基準や事例、対応方法等、従業員への教育を行うべきでしょう。
入社時の社員教育に加え、定期的に実施したり、ロールプレイング形式で行う等工夫することで、実際にそのようなシチュエーションになったときに活用することができます。

ここからはカスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応です。

(5)事実関係の正確な確認と事案への対応

顧客等からの要望事項・ご意見・苦情等が正当な内容か、顧客等からの著しい迷惑行為かを判断します。
顧客等の主張と事実に相違が無いか確認し、相違が無い場合は、顧客等の主張に基づく要求がどのようなもので、妥当性があるか、社会通念上相当かを検討します。

(6)従業員への配慮の措置

従業員が身体的な被害を受けそうな場合、または受けた場合、身の安全の確保をしなければなりません。
複数人で顧客等(加害者)を制止するよう努める、警察に通報する等、適切な対応が求められます。

また、従業員が精神的な被害を受けた場合は、産業医、産業カウンセラーといった専門医への相談を、さらに精神的な落ち込み等の症状がみられるときは、医療機関の受診をすすめます。

(7)再発防止のための取組み

カスタマーハラスメントが収束した後は、社内で事例を共有し、対応方法の振り返りを行い、次に同様の事案が発生した場合に備えます。
類似の事例がたびたび発生するようであれば、マニュアルを作成する等の対策を講じておくことで、従業員が対応に困らない、一律的な対応ができる、といった効果が期待できます。

(8)発生時から上記の措置とあわせて講じるべき措置

カスタマーハラスメントの発生時や発生直後には、上長、店舗であれば店舗責任者、専門部署等に状況を報告します。
また、民事、刑事での対応を検討する可能性も考えられますので、顧客等の発言内容に問題がありそうであれば、スマートフォンで録音をする、防犯カメラに残っている映像を残す、またカスタマーハラスメントの対応後には顛末を書きとめる、といった方法で記録を残します。

以上が事前準備、カスタマーハラスメントが発生した場合の対策の概略となります。

おわりに

今回は、事業主が講じるべきカスタマーハラスメント対策を具体的に見ていきました。
事業主は従業員に対して安全配慮義務違反として損害賠償責任を負わないために、また従業員にとっては就業環境が害されないために、そして顧客等との間で不要なトラブルに発展させないためにも、カスタマーハラスメント対策は急務です。

監修弁護士

齊藤 宏和 弁護士

弁護士

弁護士法人親和法律事務所 パートナー弁護士
早稲田大学法学部卒業。関西学院法科大学院修了。
中小企業の法務顧問を務めつつ、経営上の課題解決に対してもアドバイスを行う。
特に、医療・介護特化の経営学修士を取得し、ヘルスケア分野に注力している。

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