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【事業者向け】公益通報と内部通報制度の意義 〜改正公益通報者保護法を踏まえた注意点〜

【事業者向け】公益通報と内部通報制度の意義 〜改正公益通報者保護法を踏まえた注意点〜

2020年6月に公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立・公布されました。(2021年12月29日現在、施行日未定。2022年6月1日施行に向け準備中)
本コラムでは、改正公益通報者保護法を踏まえたうえで、公益通報について解説していきます。

参考:消費者庁HP 「公益通報者保護法と制度の概要」(外部リンク)

公益通報とは

一般的には、次の通りとなります。

”公益通報とは、事業者において、法令違反行為や不正行為といったコンプライアンス違反の事実、またはそのおそれや疑いのある状況を知った者が、上司等への報告や、事業者の内部に設けられた通報相談窓口、当該法令違反等について権限を有する行政機関その他の通報先に対して通報することをいう。”

”公益通報者保護制度とは、公益通報を受け付けて調査等を行うとともに、公益通報を行った通報者を保護する仕組みである。”

出典:山本隆司・水町勇一郎・中野真・竹村知己「解説 改正公益通報者保護法」(弘文堂)より

公益通報には内部通報外部通報とがあり、事業者の内部(事業者が外部に設置した通報相談窓口サービスや顧問弁護士を含む)に対して通報することを内部通報、行政機関や報道機関、消費者団体等の外部の第三者に対して通報することを外部通報といいます。

通報先によって、事業者内部(社外窓口を含む)へ通報する1号通報、権限を有する行政機関へ通報する2号通報、その他第三者(報道機関、消費者団体等)へ通報する3号通報に区分されています。


通報者の範囲

公益通報者保護法で保護される通報者の範囲は、これまでは労働者のみでした。

労働者とは、労働基準法第9条に規定する労働者(職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者)のことをいい、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれます。

2020年改正により、通報者の範囲に「退職後1年以内の退職者」が含まれるようになりました。(なお、改正の過程で退職後の期間が「1年」でよいか、さらに長期とすべきかが議論されたようです)
また同時に、通報者の範囲に「役員」も追加されました。但し、役員による外部通報が、公益通報者保護法で保護されるのは、事業者内部で調査是正措置につとめたことが要件となります。

参考:消費者庁 「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)[PDF:312KB]」(外部リンク)


通報先

通報先には、以下の3つが定められています。

①1号通報(事業者内部)の場合
労務提供先又は労務提供先があらかじめ定めた者

労務提供先とは
雇用元(勤務先)で働いている場合は雇用元(勤務先)の事業者、派遣労働者として派遣先で働いている場合は派遣先の事業者、雇用元の事業者と取引先の事業者の請負契約等に基づいて当該取引先で働いている場合は取引先の事業者となります。

労務提供先があらかじめ定めた者とは
労務提供先が、社内規程に定める等の方法で労働者に通報先を周知した場合の通報先を言います。(グループ共通のヘルプライン、社外の弁護士、労働組合等。最近は窓口業務を代行する事業者もあります)

②2号通報(行政機関)の場合
通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関

③3号通報(その他の事業者外部)の場合
その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者

ex) 報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合、周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合等)


通報対象事実

通報対象事実とは、公益通報者保護法で定める法律に違反する犯罪行為(又は最終的に刑罰につながる行為)及び行政罰の事実をいいます。

これまでは公益通報者保護法で定める法律に違反する犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)だけでしたが、2020年改正により、公益通報者保護法で定める法律に違反する過料の対象となる行為(行政罰の対象となる行為)が追加されました。

参考:消費者庁 「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)[PDF:312KB]」(外部リンク)


体制整備義務

2020年改正により、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務が定められました。事業者は、窓口設定、調査、是正措置等の整備が必要となります。但し、中小事業者(従業員数300人以下)は努力義務にとどまります。

具体的な内容は、「公益通報者保護法に基づく指針」が定められ、公表される予定となっています。また、権限を有する行政機関には、外部通報体制の整備が義務付けられましたが、こちらの具体的内容についても、行政機関の意見を聞きつつ、ガイドライン等において示す予定とのことです。

参考:消費者庁 「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説[PDF:752KB]」(外部リンク)


体制整備における事業者がとるべき措置としては、以下のような項目があげられます。

■ 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
  • 内部通報受付窓口の設置等
  • 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置
    (調査義務、是正措置、措置が適切に機能しているかを確認するなど)
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
■ 公益通報者を保護する体制の整備
  • 不利益な取り扱いの防止に関する措置
    (公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置など)
  • 範囲外共有等の防止に関する措置
    (範囲外共有を防ぐための措置、通報者の探索を行うことを防ぐための措置など)
■ 内部公益通報体制を実効的に機能させるための措置
  • 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
  • 是正措置等の通知に関する措置
  • 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
  • 内部規程の策定及び運用に関する措置 

守秘義務

2020年改正により、公益通報対応業務に従事する者に対し、通報者を特定させる情報の守秘義務が定められました。この守秘義務に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)の対象となります


その他の改正

  • 公益通報者の保護の内容として、通報に伴う損害賠償責任の免除を追加。
  • 行政機関への通報の条件に「氏名等を記載した書面を提出する場合」を追加。
  • 報道機関等への通報の条件として「生命・身体に対する危害」に加え「財産に対する損害(回復困難又は重大なもの)」を追加。
  • 報道機関等への通報の条件に「通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合」を追加。

事業者内部における公益通報の流れ

内部通報があった場合、以下のような流れとなります。

      ① 法令違反行為・不正行為といったコンプライアンス違反の事実の発生
      ② 労働者等からの通報相談窓口への通報
      ③ 担当者による通報者への聴き取り及び裏付け資料の入手
      ④ 担当者による調査
      ⑤ 是正措置、再発防止策の検討及び実施、懲戒処分の実施等
      ⑥ 通報者に対するフィードバック

通報があった場合の留意点

■ 部下から相談があった場合

もし部下から通報があった場合、それが本当にコンプライアンス違反なのか、自分の職場だけで解決できる問題なのかという判断に迫られます。こういったときに戸惑わないように、普段から社内のルールやハラスメント防止の意識をもつよう心がけましょう。
またヒアリングの際は、事実のみを聴き取るようにしなければいけません。通報者の意見に左右されるようなことがないようにしましょう。もし自身の判断では難しい場合は、通報窓口への通報を促すことも考慮すべきです。

■ 二次被害の防止

通報があった際、「ウチの会社ではよくあることだから」「考えすぎなのではないか」などの不用意な発言はしてはいけません。それが二次被害に繋がることもあります。

■ コンプライアンス違反をしているのが上司だった場合の対応

コンプライアンス違反をしているのが上司だった場合、まずは担当部署と相談しましょう。場合によっては、監査役や外部専門家とも連携する必要があります。

■ 通報に関する秘密保持・個人情報保護を徹底

通報に関する秘密保持・個人情報保護は徹底されなければいけません。それはつまり「犯人捜しはしてはいけない」ということです。コンプライアンス違反者とはいえ、不用意に名前を職場で明かすことは、パワハラ及び守秘義務違反に該当する可能性があります。

■ 匿名での通報への対応

「なぜ通報者は匿名を希望するのか」ということをよく考慮しなければいけません。単なる嫌がらせの可能性もありますが、真剣な通報の可能性も当然あります。先入観のない見極めが大事となります。

■ 通報に関する調査に対して

通報に関する調査に対して、その調査への協力は義務です。事実は事実として説明しなければならず、隠蔽や忖度は決してしてはいけません。

■ コンプライアンス違反が発生した場合の対処

調査の結果、コンプライアンス違反が発生した場合、社内規則にしたがって処分することになります。処分の他に人事異動も検討することになるでしょう。ただ、処分内容の公表については、通報者への配慮は当然として、処分対象者への配慮も必要となりますので、細心の注意が必要です。


公益通報は内部統制の最後の砦

そもそも、経営者には労働者に対する安全配慮義務の他、遵法義務があります。 公益通報者保護制度がなくても、解雇、懲戒、出向(配転)には合理性が必要です。通報されやすい職場ではなく、通報されない職場作りが、経営者の大きな役割ではないでしょうか。


監修弁護士

佐藤 弘康 弁護士

弁護士

法律事務所Comm&Path 弁護士。
早稲田大学法学部卒。
主な取扱分野は株主総会指導、労働事件(企業側)、事業再生、債務整理(金融調整含む)、倒産等。著書に「株主総会の要点(商事法務)」「一般法人・公益法人のガバナンスQ&A(金融財政事情研究会)」

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