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遺言書は見つけてもらわないと意味がない?
自分の意思をしっかり残す『遺言書保管制度』とは

遺言書は見つけてもらわないと意味がない?自分の意思をしっかり残す『遺言書保管制度』とは 遺言書保管制度ができる前は、自筆証書遺言を弁護士に預けることや、公正証書遺言(公証役場で保管してくれます)が使われておりました。
そして、令和2年7月10日、遺言書保管制度がスタートし、遺言を預ける制度の選択肢が増えたのです。

今回は、この遺言書保管制度について説明いたします。

目次


  • 1.遺言書が発見されなかった事例 -タンスの奥から見つかったおばあちゃんの思い-
  • 2.遺言書保管制度とは
  • 3.「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」
  • 4.遺言書保管制度の他の特色
  • 5.どの手続きを使えばよいか
  • 1.遺言書が発見されなかった事例-タンスの奥から見つかったおばあちゃんの思い-


    Aさん(仮、故人)は、夫に先立たれ、3人の子どもがいました。Aさんの財産は、同じような価値の土地が3つ。
    自分が亡くなった後は、3人のこどもに1つずつ土地を分け与え、売らずに使って欲しいと思ってました。

    「貸してもよいけど、売るのは嫌だ。」

    そんな思いをお持ちの方は多いです。
    Aさんにとって、この3つの土地は、先祖代々のものだったので、売るのは忍びなかったのです。

    Aさんは、自分の思いを実現するために、遺言書を書きました。
    自分で全文を自書し、最後に署名押印する形の、いわゆる自筆証書遺言です。

    遺言を書くときに、弁護士に相談するという発想がなかったため、自分で本屋に行き、書き方を教えてくれる本を数冊購入し、読みました。
    そして、自宅のテーブルで、便箋に遺言内容を書きました。この土地はB、この土地はC、この土地はDに相続させると。
    最後に署名をし、印鑑を押しました。日付も書きました。茶封筒に入れ、タンスの奥にしまいました。法的には何の問題もない遺言です。

    その後Aさんが亡くなり、3人の子どもは遺産分割の話をしました。どの土地を誰が相続するかで折り合いがつかなかったため、土地は3つとも売却し、売却代金を3人で分けることにしました。
    土地はすぐに売れ、遺品整理をしている段階で、茶封筒が発見されました。

    3人の子どもは茶封筒の中身を見て、顔を合わせましたが、無言でうなずき、その茶封筒と中身を捨ててしまいました。
    もう、土地を売ってしまった以上、今更何もできないと思ったのでしょう。
    このように、遺言は、見つけてもらわないと意味がないのです。

    2.遺言書保管制度とは


    遺言書保管制度は、令和2年7月10日からスタートしたあたらしい制度です。

    これは、自分で書いた自筆証書遺言を、法務局が保管してくれる制度になります。
    具体的には、自分で書いた遺言を法務局に持っていくと、原本及び画像データが保管されます。
    原本は、その方の死後50年、画像データは死後150年保管されます。

    これによって、遺言書をなくしたり、誰かに改ざんされたりすることを防ぐことができます。
    また、希望すれば自分が亡くなったときに、1人に限り、遺言が保管されていることのお知らせが届くことになっています(死亡時通知)。

    戸籍の事務も法務局が扱っているので、このような連携ができるのです。
    遺言書の保管申請の手数料は3900円となっております。

    3.「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」


    遺言を作成する方法には、大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。

    「自筆証書遺言」とは、遺言の全文を自分で書き、日付、氏名を自書し、捺印する方法による遺言です。
    手軽に作成でき、専門家に依頼する必要もない反面、法的なチェックが不十分で無効となるおそれや、自宅のタンス等で保管された結果、死後に誰にも発見されないおそれなどが指摘されていました。

    そこで、弁護士等に依頼し、下書きを法的な観点からチェックしてもらうことや、作成した自筆証書遺言を弁護士が保管することが行われていました。
    今回の遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言が発見されない事態や改ざん等は防ぐことができるでしょう。一方で、自筆証書遺言のリーガルチェックの必要性は残されたままです。

    遺言書保管制度を利用すれば、法務局が形式的なチェック(署名押印があるか、日付が書かれているかなど)は行ってくれますが、内容面のチェックまではしてくれません。内容面が法的に適法かどうか(財産の分け方が民法の遺留分という制度に反していないかなど)を希望される場合は弁護士によるチェックが必要でしょう。

    公正証書遺言は、公証役場という役所にいき、公証人(裁判官等の経験者です)の面前で遺言の内容を口頭で述べることによって、公証人に作成してもらう遺言です。
    公証人のチェックを受けるので、法的に無効となることがないこと、公証役場に遺言を保管してもらうことがメリットです。

    ただし、公証人に出す遺言内容の下書きも、ある程度の形にしておく必要があるので、弁護士に依頼した上で、公証役場にいって遺言を作成する方も多いです。
    また、証人が2人必要になります(心当たりがない方は、公証役場が用意してくれます)。
    弁護士依頼費用のほかに、公証役場に支払う必要が発生するのがデメリットです。

    4.遺言書保管制度の他の特色


    通常の(自宅保管の)自筆証書遺言は、例えば遺言に基づいて土地の名義変更をする際、遺言書を家庭裁判所に持って行って「検認」というものを受ける必要があります。

    一方、遺言書保管制度を利用した場合は、「検認」が不要になります。また、遺言者が亡くなり相続が開始した後は、相続人の方は、全国どこの法務局においても、遺言書をデータとして閲覧したり、遺言情報証明書の交付を受けられたりします。
    遺言情報証明書とは、遺言者の氏名,出生の年月日,住所及び本籍(又は国籍等)に加え,目録を含む遺言書の画像情報が表示されるものであり,遺言書の内容の証明書となるものです。

    この遺言情報証明書で、例えば銀行預金の解約をしたりすることが考えられます。
    また、相続人の1人が、遺言書や遺言データを閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたりした場合は、他の相続人にも遺言書が保管されている旨の通知がいきます。

    このように様々なメリットが遺言書保管制度には存在します。

    5.どの手続きを使えばよいか


    遺言書保管制度ができたことにより、「自宅保管の自筆証書遺言」→「法務局保管の自筆証書遺言」→「公正証書遺言」という3通りの遺言制度ができたと考えてもよいでしょう。

    あとは、費用面や書き換えの可能性を考え(頻繁に書き換えるなら公正証書遺言はコストが高い)、どの遺言にするか選択をしていけばよいでしょう。
    また、内容面で気になることがあれば、あらかじめ弁護士に相談すると安心です。

    監修弁護士

    武山 茂樹 弁護士

    弁護士

    京都大学法学部卒
    新橋虎ノ門法律事務所 共同代表弁護士
    LEC東京リーガルマインド専任講師

    得意分野は、不動産分野、相続、中小企業法務、税務訴訟
    取扱分野は、交通事故、労働問題、離婚・男女トラブル、刑事事件、被害者支援、知的財産(著作権、商標)

    著書には『ゼロからスタート! 武山茂樹のビジネス実務法務検定試験1冊目の教科書』がある。

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