近年は、ホームページ、ブログ、SNSで、誰でも気軽に文章、写真、イラストなどをインターネット上に投稿できるようになりました。このようなWeb媒体を活用することで、安価に幅広く宣伝活動が行えるなど、ビジネスで活用されている方も多いと思います。
ただ、Web媒体に安易に他人の作品を掲載すると、権利侵害となるおそれがあり、それは商用利用ではない個人の場合であっても同様です。
今回は、「著作権」の観点で、どのような点に注意をすべきか、確認していきましょう。
目次
「無断転載」と「引用」の違い
他人の文章、写真、イラストなどを「引用」することは、著作権法上、問題ありません。
では、「引用」とはどのような場合が当てはまるでしょうか。
著作権法において、引用利用する場合には以下の要件が求められています。
①「公表された著作物」であること
②「公正な慣行に合致するもの」であること
③「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であること
それぞれについて詳しくみていきましょう。
①「公表された著作物」であること
未公表の著作物を、無断で公表することはできません。そのため、引用の対象となり得るのは、著作権者が公表した著作物について、となります。
②「公正な慣行に合致するもの」であること
「公正な慣行」について、明確な基準はなく、社会において実態的に行われおり、広く許容されているかどうかにより判断されます。
例えば、報道のために著作物を使用する場合や、自分の見解を説明するために他人の見解を示したうえで批判を加えることは、社会において行われているため、公正な慣行に該当すると判断されます。
③「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であること
引用は、報道、批評、研究、その他の引用の目的上、正当な範囲内で行われなければなりません。これは、報道、批評、研究、その他の目的のために、引用をする必然性がある場合を指し、適切な量を使用し、引用しすぎてはならない、ということです。
例えば、絵画を引用する場合、美術史の研究などのため、資料的な意味で引用することは認められます。
従来は、「引用の目的上正当な範囲」かどうかについて、「区別性」と「主従関係」の2つの基準から判断していました。
・区別性
文章であれば、カギカッコでくくるといった方法で、どこからどこまでが引用されたものであるか、明確に区別する必要があります。
・主従関係
自分のオリジナルな文章などを「主」とし、引用する部分を「従」とします。
引用する部分が大半を占めるなど、引用する部分が主となるような場合は、引用とは認め難くなります。
ただし、近時は、引用の目的、方法や態様(量的・質的)、利用される著作物の種類や性質、利用される著作者の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合的に考慮して判断される傾向も見受けられます。
以上の条件を満たした場合、「引用」ということができると考えられます。
中には、見解が分かれるものもありますが、過去の裁判例を踏まえると、誰が見ても引用だと分かるような工夫や配分割合を心がけるようにしましょう。
◎出典の明示
なお、引用であることを明らかにするため、また引用の方法が正当であると示すため、引用を行う際には、出展を明示するようにしましょう。
・ウェブサイトを引用した場合は、記事のタイトルとURL
・書籍を引用した場合は、書籍のタイトル、著者名、出版年、出版社
といったものを表示し、引用していることを明らかにしておくべきです。
著作権侵害時に著作権者が取り得る対応
著作権侵害が発覚した場合、著作権者にはどのような救済措置が認められているでしょうか。
◎削除(差止)請求
侵害行為者に故意または過失がなくとも、ウェブサイト運営者に直接、あるいはプロバイダを通じて削除(差止)請求を行うことができます。
民法にはない、著作権等の知的財産権ならではの救済手段です。
◎損害賠償請求
侵害行為者に故意または過失があれば、無断転載された場合、使用料などを請求することが可能です。
使用料を根拠とする請求方法以外では、相手方が無断転載によって得た利益を損害として賠償請求することが考えられます。他方で、無断転載をした作品によって得た相手方の利益を算出することが難しいことから、損害額とみなされる使用料をもとに損害賠償請求をする方法もあります。
民法では損害額の推定規定は存在しませんが、著作権等の知的財産権の侵害について、一から損害額の立証をしなければならないのでは煩雑なため、損害額の推定等の規定が設けられています。
◎刑事罰
上記二つの民事的な救済に加えて、著作権法では刑事罰についても規定があります。
刑事罰なので、侵害行為者に故意があることが必要で、会社などの代表者や従業員による侵害の場合、会社(法人)自体も処罰される可能性があります。
著作権侵害への対応
上記の救済措置を踏まえ、著作権侵害に対して、どのような流れで対応していくことになるかを確認していきます。
◎侵害行為者の特定
企業のホームページや個人で運営しているブログなど侵害行為者がウェブサイト運営者の場合もあれば、ウェブサイト運営者とは別の人が侵害行為者の場合もあります。
ウェブサイトの運営者が侵害行為者であるか判断がつかない場合は、問合せフォーム等で確認をしてみましょう。
また、プロバイダ責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)を活用することも一考です。
プロバイダ責任制限法では、以下の手続きを取ることができます。
‐発信者情報開示請求:プロバイダに発信者の個人情報を開示してもらう。
‐送信防止措置依頼:プロバイダに写真等の著作物を削除してもらう。(後述)
さらに、裁判による発信者情報の開示請求をすることもできます。
任意による開示請求は、直接プロバイダに開示請求書を送り、プロバイダが発信者の意思を確認して開示に応じるか判断します。他方で、裁判手続きによる開示請求は、権利者とプロバイダの主張を聞いて、裁判所が開示を認めるか否かを判断します。
◎相手方と交渉
*削除(差止)請求の場合
・ウェブサイト運営者に削除請求
侵害行為者がウェブサイト運営者の場合や、プロバイダの特定が困難場合、ウェブサイト運営者に連絡をする方法があります。速やかに応じていただければ、メール等のやりとりで費用や時間をかけずに解決することもあります。
・プロバイダに削除請求
プロバイダが特定できたものの、直接相手とのやり取りを避けたい場合、コンテンツプロバイダやホスティングプロバイダに削除請求をすることになります。
プロバイダが用意する専用フォーム等での申請や、前述のプロバイダ責任制限法に基づく「送信防止措置依頼」の二通りの方法があります。
<SNSの場合>
Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSは、海外企業が運営していることから、日本のプロバイダ責任制限法に基づく「送信防止措置依頼」では対応できないため、直接相手と交渉するか、各社の削除ルールに従わなければなりません。
相手方にダイレクトメッセージを送るか、SNS運営企業に削除請求をする方法が考えられます。ただし、SNS運営企業に削除請求をすると、請求者の氏名、住所等の個人情報が相手方に報告されるため、抵抗を感じる場合は弁護士に依頼をするのが良いでしょう。
*損害賠償請求
・書面等で相手方へ連絡をします。返答が無い場合は、内容証明郵便の利用を検討されても良いかもしれません。
・示談が不調に終わった、侵害行為者が通知を無視するなど、解決されない場合、最終的には裁判手続きに頼ることになります。
日頃から創作活動を行い、自身の権利を守りたい人は、自らの文章、写真といった著作物が無断転載されていないか、こまめに確認されることをおすすめします。
また、権利を侵害しないようにしたい人(他人の著作物を使いたい人)は、著作権を侵害しない範囲で使用するよう留意しましょう。