弁護士保険コラム Column

〔事例解説〕モラハラで離婚?~モラハラを受けたときに、すぐにやるべきこと~

〔事例解説〕モラハラで離婚?~モラハラを受けたときに、すぐにやるべきこと~

1 そもそもハラスメントって?

今の社会は、ハラスメントがつく言葉であふれています。セクハラ、パワハラ、マタハラ、アルハラ、スモハラといった良く耳にするものから、ハラスメント・ハラスメント(あらゆるものをハラスメントと呼ぶハラスメント)まで、ハラスメントは広がりを見せています。

相談者からも良く「これってパワハラですか?セクハラですか?モラハラですか?」と質問されますが、実は、慰謝料等を求める裁判実務で、ハラスメントの区別は厳密にされていませんし、その必要性もあまり高くはありません。 

そもそも法律でさえ、これらのハラスメントを正確に定義できていないのが現状です。

例えば、

セクハラは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)とされ、

パワハラは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)とされているように、

就業環境下での限定的な定義が中心です。

2 モラハラ(モラル・ハラスメント)とは

【モラハラ】という言葉が日本で知られるようになったのは、一説では、1999年にフランス人女性精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌの著書『モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない』(原題『Le harcelement moral : la violence perverse au quotidien.』)(紀伊国屋書店)が翻訳出版された頃と言われています。

モラハラには、セクハラやパワハラのような法令等の定義もなく、社会的に捉えられている意味合いも分かれています。いわゆる倫理・道徳に反するという意味合いのほか、職場でのいじめを意味する「mobbing」という表現もあるように、必ずしも倫理・道徳に直結するものではないようです。

裁判例や精神科医等の共通見解からすると、(肉体的な暴力や身体・生命・財産に対する脅迫(害悪の告知)にまでは至っていなくとも)「言葉や態度で相手の人格や尊厳を傷つける精神的な攻撃」という「表現」が一番当てはまると考えられます。この場合、セクハラのように性的なものに限定されませんし、パワハラのように優越的関係を利用したものにも限定されません。

では、具体的にどのような行動がモラハラになるでしょうか。

以下の各例は夫婦間でのモラハラを想定していますが、該当すれば直ちにモラハラというわけではありません。頻度、声量、状況、話合いの有無、受取り方といった差も勿論ありますので、一つの目安、そして心構えの気持ちで参考にして頂ければと思います。

  • 配偶者だけでなくその友人、両親、兄弟又は親族の悪口をいう
  • 門限を決めて帰り時間を指示する
  • 常に居場所を連絡するように指示する
  • 職場や友人との食事会を禁止する
  • 家事や育児を配偶者に押し付ける
  • 子供の成績が悪いことを配偶者のせいにする
  • 気に入らないことがあると無視する
  • 配偶者の仕事や収入を、否定する又は見下す
  • 配偶者の能力や外見を、否定する又は見下す
  • 何時間も説教をする
  • 生活リズムや生活習慣を合わせるように配偶者に求める
  • 配偶者の携帯電話をチェックする
  • 生活費を渡さない
  • 配偶者の愛用品を捨てる

このように、挙げればきりがないほど広い概念がモラハラです。セクハラ・パワハラのように就業環境を中心として発展した概念ではなく、家庭環境を中心としてきた概念であるため、実態の把握が難しく、法律による規制はしばらく時間がかかるかもしれません。

3 モラル・ハラスメント(家庭において)

(1)離婚原因

離婚原因の一つとして「婚姻を継続し難い重大な事由」というものがあります。婚姻生活が破綻し、その修復も著しく難しい場合をいいますが、別居期間、子の有無、資産状態といった客観的に判断できるものから、性格の不一致という本人達にしかわからない要素まで、あらゆるものが考慮されます。

最近の離婚調停・離婚訴訟では、モラル・ハラスメントとして、耐え難い侮辱的な発言・行動が、婚姻を継続し難い重大な事由(離婚原因)にあたると主張されることが多くなっています。

裁判例としては、大阪高等裁判所平成21年5月26日判決(家庭裁判月報62巻4号85頁)があります。これは、

背景
:約18年生活を共にしていた夫婦が妻のモラハラを理由に別居

夫の事情
:高齢で病気がちとなり生活力を失った

妻の事情
:日常正活の様々な形で夫を軽んじるようになった
:仏壇に祀っていた夫の先妻の位牌を無断で親戚に送り付けた
:夫の青春時代からの思い出の品々を勝手に焼却処分した

という事案です。

裁判所はこうした妻の行為を,「夫の人生に対する配慮を欠いた行為」「夫の人生の中でも大きな屈辱的出来事として心情を深く傷つけるものである」(下線部は筆者による。)と指摘し、妻が夫への精神的打撃(≒モラハラ)を理解しようとしていないことも考慮して,別居期間が1年余りと比較的短いながらも、婚姻を継続し難い重大な事由があると認めています。

(2)配偶者への損害賠償

配偶者からのモラハラは、精神的な攻撃とはいえ、セクハラやパワハラと同じように、精神的な苦痛を感じれば損害賠償を請求できます。ではどのような場合に損害賠償が認められるでしょうか。

最高裁判所の先例はまだ見当たりませんが、私は、名誉感情の侵害による損害賠償について言及した最高裁判所第3小法廷判決平成22年4月13日(別冊ジュリスト241号228頁)が参考になると考えています。

名誉棄損と名誉感情の侵害の区別は、「具体的事実に言及しているかどうか」という点のほかにも、第三者からの評価を傷つけるものなのか、相手の人格・自尊心そのものを傷つけるものなのか、という分け方もできます。モラハラによって侵害されるものの多くは、後者の名誉感情です。

そして、この最高裁判決では、名誉感情は、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて」「人格的利益の侵害が認められ得る」(下線部は筆者による。)と述べています。

具体的にモラハラによる人格的利益の侵害が認められたと評価されている裁判例としては、東京高等裁判所判決昭和54年1月29日判決(判例タイムズ380号148頁)もあります。

ここでは別居した夫が、昼夜問わず妻や親族に嫌がらせの電話(その内容も、妻、妻の両親、兄弟の悪口等の侮辱的な発言を行ったというひどいものです。)をしたこと等で精神的苦痛に対する慰謝料500万円を認めています。

なお、精神的苦痛を理由に慰謝料が認められるのであれば、ほかにも例えば、

  • モラハラが原因の精神疾患の治療費
  • 精神的苦痛によって就業できない場合の逸失利益

といった損害も請求できる可能性があります。

(3)どうやって配偶者のモラハラを証明すればいいのか

配偶者のモラハラは、言葉や態度によって引き起こされますが、目に見えてわかる暴行によるケガと違い、証拠が残りにくいものです。

裁判においては、

      モラハラがあったのか
      モラハラで本当に傷ついたのか

の2点を証明しなくてはなりません。

モラハラは、頻度も重要になってきますので、モラハラを受けたと感じたときには、以下の準備を早めにすることが肝要です。

● 日記

特に手書きの場合、長期間連続・継続していればいるほど捏造されていないものとして信用性が高まります。

● 友人や両親へのメール、チャットの履歴

第三者を介して情報を蓄積することで信用性が高まります。

● 配偶者への録音や録画

もっとも客観的な証拠ですが、長期間かつ多数の記録は難しいため、日記、メール、チャット等の他の証拠を補強するものとして重要となります。

● 外部機関への相談

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」、いわゆるDV防止法により、モラハラ(暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)を受けた配偶者は、都道府県が設置する配偶者暴力相談支援センターでの相談を受けることもできます。そのほかに精神科医とのカウンセリングや警察への相談もあるでしょう。その際の相談履歴や相談時の録音も重要な補強証拠となります。

4 最後に

家庭という枠組みで展開してきたモラハラですが、現在は職場でのモラハラも注目を浴びています。パワハラとは異なり、職場での優越的関係とは無関係に精神的な攻撃を受け、うつ病等となった従業員が労災認定を受けるケースもありえます。家庭も企業も、モラハラというものが身近にあることを自覚しなければならない時代が来ているのです。

監修弁護士

千崎 英生 弁護士

弁護士

露木・赤澤法律事務所 所属

得意分野、注力分野は、企業運営コンサルティング、契約・与信管理、知的財産管理。
取扱実績として、契約書レビュー1000件超、民事訴訟(債権回収、労働訴訟、一般民事訴訟等)件数500件超、法務DDその他M&A交渉、裁判員裁判その他刑事手続、社外役員業務(JASDAQ企業監査等委員社外取締役等)など

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