中古不動産物件の売買契約に関わる法律は主に民法です。その民法が改正され、2020年4月1日に改正民法が施行されたことはご存知でしょうか。今回の改正民法の中で、売買した物件に欠陥があった場合に発生する「瑕疵担保責任」に代わり、「契約不適合責任」が規定されました。
改正民法では、「隠れた」「瑕疵」という文言を排し、「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に契約不適合責任が発生すると明記しました(562条1項)。あわせて契約不適合責任の内容として、買主の売主に対する追完請求権(562条)、代金減額請求権(563条)、解除権や損害賠償請求権(564条)がある旨も明記されました。
変更によって、新たに売主に生じる責任や、売買契約の際の注意点をお伝えします。
瑕疵担保責任のおさらい
瑕疵担保責任の瑕疵とは、一般的に果たすべき役割が果たせていない状態・欠陥のことです。住宅の場合であれば、雨漏り、シロアリ、主要な木部の腐食などがあります。
瑕疵担保責任では、物件の購入後に「隠れた瑕疵」を買主が発見した場合、発見後の1年間、売主に対して損害賠償を請求できるとされています。また、契約の目的を達成することができない場合は、無条件で契約解除ができます。
「隠れた瑕疵」とは、買主側が購入前に通常の注意を払ったにも関わらず、発見できなかった欠陥や不具合のことです。
例えば、物件購入前に、買主が注意して物件の状態を確認したが、シロアリ被害に気が付かず、購入後に被害を知った場合、それは「隠れた瑕疵」になります。ですから、買主は定められた期間内であれば、売主に損害賠償の請求ができます。また、あまりに被害が大きく、住むことができない(購入の目的が達成できない)などの場合には、契約の解除を申し出ることができます。
契約不適合責任とは
瑕疵担保責任に代わって新たに定められた契約不適合責任は、主に契約書に書かれた内容の不一致によって発生する責任です。
一般的に、売主は売買契約の内容にあった物件を、買主に引き渡す義務を負っています。この契約の中で、引き渡す物件の「種類、品質、数、量」が「契約内容に適合していない」と判断された場合、売主は買主に対して責任を負わなくてはなりません。
住宅であれば、シロアリ被害がある物件の売買契約書に「シロアリ被害がある」と書かれていないと、売主は売却後に買主から修繕の請求や、物件の減額請求をされる可能性があります。逆に、「シロアリ被害がある」と書かれていれば、その被害に対して責任を負う必要はありません。
ポイントは、「契約書への記載の有無」になるので、従来の瑕疵担保責任よりもわかりやすくなったと言えます。
契約不適合責任で請求できる権利
瑕疵担保責任では、買主は売主に対して「契約解除」と「損害賠償」の2つの請求ができました。一方で、契約不適合責任では、「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償」の5つの請求が認められています。それぞれの権利について解説していきます。
追完請求(562条)
引き渡す物件の「種類、品質、数、量」が「契約内容に適合していない」場合、物件の補修や代替物の引き渡し、または不足分の引き渡しを求めることができます。不動産売買における追完請求としては、修理を請求する「修補請求」が考えられます。
代金減額請求(563条)
買主が追完請求をしたにも関わらず、売主側が実行しない、またはできない場合、買主は代金減額請求をすることができます。
催告解除(564条で準用される541条)
催告とは、相手側に対して一定の行為を請求することです。買主の追完請求に売主が応じない場合、買主は催告して契約を解除することができます(催告解除)。
無催告解除(564条で準用される542条)
無催告解除とは、目的物が売買契約の内容に適合しておらず、契約の目的の達成ができない場合にできる契約解除のことです。相手方に催告をすることなく、直ちに契約を解除することができます。
損害賠償(564条で準用される415条)
瑕疵担保責任では、売主が損害の発生について善意無過失でも買主は損害賠償請求ができました。一方で、契約不適合責任では、売主が損害の発生について悪意や過失がなければ損害賠償請求ができません。
また、瑕疵担保責任では、損害賠償の請求範囲が「信頼利益(※1)」に限られていましたが、契約不適合責任では、「履行利益(※2)」まで請求できます。
※1 信頼利益:本来不成立・無効の契約を「有効に成立した」と信じたことによって債権者に生じた損害。
※2 履行履歴:履行されていれば買主が得られるはずであった利益。転売利益や営業利益など。
確認すべき契約不適合責任のポイント
<ポイント1> 契約書の記載内容の重要性が増した
契約不適合責任では、「契約書に書かれているかどうか」が重視されるため、契約書の記載がより重要になりました。売主が欠陥のある不動産を売る場合、欠陥の内容を正しく記載する必要があります。
その際に、「〇〇の不具合や故障については、修補・損害賠償その他一切の責任を負わない」など、免責特約を付けることは有効なので、買主売主ともに契約内容をしっかりと確認することが重要です。
<ポイント2> 売主の負担が重くなった(買主が請求できる権利が増えた)
買主が請求できる権利が5つに増えたことと、損害賠償請求の範囲が広がったことから、売主の責任負担が増えました。ただし、損害賠償請求は、売主に悪意や過失がなければできません。
契約不適合責任 | 瑕疵担保責任 | |
---|---|---|
対象 | 契約との不適合 | 隠れた瑕疵 |
買主が 請求できる権利 |
・追完請求・代金減額請求・催告解除 ・無催告解除・損害賠償請求 |
・契約解除・損害賠償請求 |
請求できる期間 | 原則、買主が契約不適合を知ってから1年以内に売主に通知すれば、請求は1年を経過した後でもよい。但し、権利行使ができることを知ってから5年(または、権利行使ができるときから10年)までに請求しないとその権利は時効消滅する。 | 瑕疵を知ってから1年以内。 |
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わったことで、売主と買主ともに注意すべき点が変わりました。中古物件の売買契約ついては、変更となった点をしっかりと理解した上で契約することが大切です。