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労働時間の正しい理解 ~該当例と非該当例を踏まえて~

労働時間の正しい理解 ~該当例と非該当例を踏まえて~

「労働時間」について、正しく理解していますか?

制服(ユニフォーム)がある仕事では、制服に着替える時間が労働時間に該当しますが、使用者(会社)側が「制服(ユニフォーム)に着替える時間が労働時間であること」を認めず(=賃金が発生しない取扱いとし)、たびたび話題になることがあります。

仕事をするために必要な準備や片付けの時間、会社から強制されるEラーニングやセミナー等を受講する時間は、労働時間にあたり、賃金が発生します。

使用者、労働者ともに労働時間を正しく理解し、無用なトラブルに発展させないようにしましょう。

労働時間とは?

労働時間は、「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間」をいいます。

具体的には、明示(言葉や書面ではっきりと伝える)または黙示(暗黙のうちに意思や考えを表す)の指示により、労働者が業務に従事する時間が該当します。

労働時間と判断された場合、使用者は従業員に賃金を支払わなければなりません。

労働時間に該当するケース、該当しないケース、それぞれどのようなものがあるか?

どのようなケースが労働時間に該当するのか否か、具体例を確認していきましょう。

【労働時間に該当するケース】

・参加が義務付けられている研修や教育訓練の受講、Eラーニング等業務に必要な学習を行う時間

(例:店舗オペレーションに関する動画視聴、パソコンで業務に関するテストを受ける時間)

・着用を義務付けられた所定の服装(制服、ユニフォーム、作業着等)への着替えの時間

(例:店舗で決められた服装に着替える時間)

・業務終了後の業務に関連した後始末(片付け・清掃等)の時間

(例:退勤時にパソコンの片づけを会社が要求した場合のパソコンを片付ける時間)

以上のとおり、労働時間は、客観的に見て労働者の行為が使用者から義務付けられていたものといえるか否か(就労の実態)で判断され、労働契約や就業規則等により決められるものではありません。

就業を命じられた業務に必要な準備行為や業務終了後の関連作業を行う場合、この時間は労働時間に含まれると考えられます。

【労働時間に該当しないケース】

・仕事をするうえで身につけておいた方が良い知識を習得するための自主学習をする時間

・着替えを必要としないが、従業員の都合で着替えを行う時間

(例:冠婚葬祭に出席後に就業するにあたり、動きやすい服装に着替える時間)

・参加が義務付けられていない会社の懇親会、接待

(例:新入社員の歓迎会、取引先との会食)

・出張時の行き帰りの移動時間、取引先での打合せ後に直帰するときの移動時間

以上のように、使用者から義務付けられていない従業員の自発的な行為やコミュニケーションが円滑に行われるため業務の範疇を超えた食事会・飲み会、また直行直帰の移動時間は通勤時間とみなされるなどし、労働時間には該当しないと判断される可能性が高いです。

一方で、業務遂行の一環として参加が強制される懇親会や接待は、労働時間に該当する場合もあります。

労働者が講ずべき措置

本来は労働時間に該当するところ、使用者が正しく認識しているか否かを問わず、「労働時間に該当しない」と主張する可能性があります。

労働者の立場で「労働時間に該当するのでは?」と思われたら、その内容を具体的に記録しましょう。また、労働時間分の賃金が支払われていない場合、支払われていない賃金分の労働時間がどの程度発生しているか、それを証明する証拠を残しておきましょう。労働者側で残せる記録には限度があるかもしれませんが、自身の手帳への記録も証拠になりえます。

なお、賃金請求権の消滅時効期間は、5年(当分の間は3年)ですので、消滅時効期間を超えての請求ができない点は、注意が必要です。

使用者へ直接通知や交渉をするのが難しい場合は、弁護士や労働基準監督署への相談を検討しても良いかもしれません。

使用者が講ずべき措置

使用者は、労働時間の定義に基づき、労働時間の適正な管理や労働環境の健全な維持が必要で、

(1)労働者の労働日ごとの始業・終業時刻の確認および適正な記録

(2)賃金台帳の適正な調製

などが求められます。

具体的には、次のような内容になります。

(1)労働者の労働日ごとの始業・終業時刻の確認および適正な記録

① 使用者の目視確認や、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を残します。

② やむを得ず自己申告制とする場合、労働者や労働時間を管理する者(管理職等)に自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について十分な説明をします。

また、自己申告した労働時間と入退場記録やパソコンの使用時間等客観的な記録との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をします。

もちろん、使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等、適正な自己申告を阻害する措置を設けてはなりません。

(2)賃金台帳の適正な調製

 使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を賃金台帳に適正に記入しなければなりません。

上記に加え、労働時間を記録するタイムカード等の書類の保存等の対応すべき事項や望まれる事項についても『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』に記載がありますので、詳細は当該ガイドラインをご参照ください。

使用者において講ずべき措置が取られておらず、労働時間に関して認識違いがあると、後々、労働者から賃金を請求される可能性があります。
会社ごとに取るべき対応が異なりますので、トラブルにならないためにも懸念がある場合は、弁護士への事前相談をおすすめします。

 

【参考】

『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

監修弁護士

香川 希理 弁護士

弁護士

香川総合法律事務所 代表弁護士。
明治大学法学部、立教大学大学院法務研究科卒業後、2010年弁護士登録(東京弁護士会)、2013年香川総合法律事務所設立。企業法務を専門とし、上場企業から中小企業まで多種多様な企業の顧問をしている。主な役職としては、東京弁護士会マンション管理法律研究部、公益財団法人澤田経営道場企業法務講師など。主な著書としては「悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル」(民事法研究会)、「マンション管理の法律実務」(学陽書房)、「中小企業のための改正民法の使い方」(秀和システム)など。

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