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【事業者向け】介護や福祉施設におけるクレームトラブルの予防・解決

【事業者向け】介護や福祉施設におけるクレームトラブルの予防・解決

介護施設や福祉施設は、サービスを利用している高齢者と施設の関係だけでなく、高齢者の家族との関係も生じます。
今回は、サービスを利用している高齢者の家族からのクレーム対応について、法的な観点から検討します。

クレームとなるきっかけ

最近は、国民の権利意識の増加から、些細なことでもクレームに発展することが多い傾向にあります。そのような中で、最も注意しなければならないのは、施設内で高齢者が感染症を発症した場合や、施設側の不手際で怪我をした場合への対応です。
感染症や怪我は、施設側の不手際がわかりやすく、クレームする側も、強い態度でクレームしやすいからです。

初動の動きが大事

クレーム対応で最も重要なことは、初動での事実確認です。
感染症については、原因が施設内なのか、施設への来訪者からの感染なのかを確認しなければなりませんし、怪我の場合は、怪我の原因は事故なのか、施設の設備の不具合なのか、従業員の不手際なのかを確認しなければなりません。
このような事実確認がちゃんと出来ていない段階では、感染症や怪我の責任が施設にあると、法律上は断定できません。

謝罪のしかたも大事

謝罪のしかたも難しい問題です。施設側としては、クレームがきた段階で、どこまで事実関係が確定しているかで変わります。
明らかに施設側に非がある場合には、クレームが来た時点で誠意ある謝罪をする必要があります。
しかし、感染症や怪我の原因が何なのか事実関係が明らかになっていない場合、施設が原因であるかのような謝罪をしてしまうと、施設の責任を認めたという前提でその後の話が進んでしまいます。
もちろん、法的に責任があるかどうかが分からないからといって、何らの謝罪もしないということは、かえってクレームをしてきた家族の感情を逆なですることになります。したがって、その時点で事実関係が明らかでないのであれば、まずは、感染症や怪我で利用者である高齢者やその家族にご不便やご心配をおかけしていることについては謝罪しましょう。その上で、はっきりと、「いま原因を調査しているので、感染症や怪我の原因が判明し次第報告します。」「補償等の話については、事実関係が明らかにならないと、判断できませんので、しばらくお待ち下さい。」と説明するのが得策です。
ここで気をつけて頂きたいのは、このような施設の方針を、現場の従業員まで周知徹底することです。
怪我をした利用者を担当していた従業員が、不用意に「自分の責任で怪我をさせてしまいました。申し訳ありません。」と謝罪したことで、その後の補償に関する交渉が、施設側に責任があることを前提に進められたという例は多々あります。担当していた従業員の行動は道義的には正しいかもしれませんが、法的には確定された事実に基づいていないのに施設側の責任を認めたかのような発言になっており、施設にとっては不利であることは明らかです。

クレームがエスカレートした場合への対応

クレームが来た場合の初動をなんとか乗り越えた場合でも、残念ながらクレームがエスカレートすることがあります。
その場合には、クレームの声が大きいから相手に妥協するのはやめましょう。
あくまで事実関係に基づいて、法的に責任がないのであれば、補償の問題も生じません。
また、治療方法についても、かならずしも、クレームしている家族の言うとおりにする必要はありません。特に、高齢者の寝たきりになっているような場合、例えば怪我をして骨折した場合でも、手術をして骨を接合するよりも、骨折部分を固定して自然治癒にまかせる方が、高齢者の体力が消耗せず、また、実際の生活にもそれほど影響は出ないという判断もあり得ます。この点については、施設とお医者様との間で十分にコミュニケーションをとりながら合理的な方法を選択するしかありません。
それでもクレームが止まらない場合には、事実に基づいて是々非々に判断するしかありません。施設としては交渉を打ち切り、クレームしている家族がそれに不服であれば、裁判等の手続で解決するしかありません。

弁護士の上手な使い方

これまでお話ししたようなクレーム対応事例で、どの段階で弁護士に相談したら良いでしょうか。
弁護士への相談は、クレームが発生した段階で直ちにするのが得策です。
事実関係の確認1つにしても、何が法的に必要な事実なのかについて、実際にクレーム対応や日々の業務をこなしながら瞬時に判断することは困難です。
また、どこまで謝罪するのかについても、後々の交渉を見据えて判断するものであり、そこにも、法的責任の有無についての判断が背景になければなりません。
さらに、クレームがエスカレートして交渉を打ち切る場合には、訴訟のリスクも抱えることになりますので、どの段階で交渉を打ち切るのかという判断は、訴訟を見据えてなされなければなりません。
また、実際に、弁護士が介入して内容証明を送り、今後の交渉窓口になる旨を通知しただけで、クレームがおさまったり、合理的な話し合いがなされた事案は多々あります。
したがって、常日頃から、気軽に相談できる弁護士を確保しておくことが得策です。

監修弁護士

佐藤 弘康 弁護士

弁護士

法律事務所Comm&Path 弁護士。
早稲田大学法学部卒。
主な取扱分野は株主総会指導、労働事件(企業側)、事業再生、債務整理(金融調整含む)、倒産等。著書に「株主総会の要点(商事法務)」「一般法人・公益法人のガバナンスQ&A(金融財政事情研究会)」

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