定年退職して新たなビジネスを始められる方、副業で会社員をしながらビジネスを始められる方など、働き方の多様化が進んでいます。
面白いビジネスモデルを思いついて、「会社を設立しよう!」と思ったときに何に留意すべきでしょうか。ホームページのデザイン、eコマースの契約、営業はどうするか、材料の仕入れはどうするか、社員やアルバイトの確保は、会計や税金の申告はどうしたらいいのか・・・・などなど、会社設立時に考えるべき経営課題は様々あります。
もっとも重要なものの一つが「資本政策」です。
経営が安定するまで、創業期は何かと資金が必要です。活躍していたビジネスパーソンであれば、親族や以前勤めていた会社の同僚が資金の協力を申し出てくれるような、ありがたいケースもあるかもしれません。
<資本政策の失敗>
ビジネスを思いついたAさんが200万円、親族のBさんが500万円、元同僚のCさんが300万円持っているケースを考えてみましょう。
普通株式1株=1万円で会社を創業すると定め、創業時の出資を3人が上記金額で行う場合は、Aさんが200株、Bさんが500株、Cさんが300株を保有することになり、株式数は1000株になります。
株式の持分割合のことをシェアといいますが、それぞれAさん20%、Bさん50%、Cさん30%のシェアを持つことになります。
ところで、株式会社の重要な意思決定は株主総会でおこなわれますが、取締役の選任や、決算の承認については、過半数のシェアを確保する必要があります(定款の変更などは3分の2以上)。上の事例では、Aさんが20%のシェアしか持っていませんので、重要な意思決定については、全てBさんとCさんの了解を取らないといけなくなります。
Aさんや会社が資金を蓄えて、後日買戻しをする方法もありますが、事業がうまく成功している場合、事業価値が上昇して株式を高値で買い取りをしないといけないケースや、株主が株式を売ってくれない場合もあると思われます。創業者と株主との考え方が当初とズレてしまうと、トラブルに発展することも多々あります。
このようなケースは、Aさんの経営手腕が高くても、思うような経営ができなくなってしまう典型的な事例で、「資本政策の失敗」と呼ばれる状態です。ではどうするのが良かったのでしょうか。
<創業者が経営権を確保するために>
ひとつの方法として、最初にAさんが200万円で100%保有の会社(Aさん200株)を設立します。ビジネスプランを示して事業が立ち上がり、株式の価値が高くなったところでBさん、Cさんに入ってきてもらいます。例えば1株10万円で新株を発行します(Bさん10万円×50株=500万円 Cさん10万円×30株=300万円)。この場合、新株発行後の株式数は280株となり、シェアはそれぞれ Aさん200株(71.4%)、Bさん50株(17.8%)、Cさん30株(10.7%)となり、Aさんの経営権は確保された状態となります。
この他、専門的な手法として優先株式という種類株を活用する方法などもあります。契約書も複雑になりますので、企業法務に詳しい弁護士さんと相談してください。
会社が少しずつ大きくなり、さらにスケールさせようとすれば、いずれベンチャーキャピタルから出資を受けるタイミングが来ます。新たに株式を発行すれば創業者のシェアはその分低くなっていきます。資金的な余裕がある状態で会社設立を行い、将来のことも視野に入れて、設立当初は「外部の投資家の出資比率をできるだけ低くする」ということを肝に銘じておきましょう。