弁護士保険コラム Column

【事業者向け】新型コロナウイルスで売り上げ減…… 返済や支払いを猶予してもらうには

【事業者向け】新型コロナウイルスで売り上げ減…… 返済や支払いを猶予してもらうには

新型コロナウイルスの影響で多くの企業や個人事業主の売り上げが減少しています。また、金融機関からの借入金の返済や賃料の支払いに困っている人も多いと考えられます。

金融機関への返済や支払いを猶予してもらうにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは、金融機関への返済や支払猶予の実態、資金繰りの方法などを解説します。

金融庁は金融機関に返済や支払いの猶予を要望している

コロナショックで営業自粛を余儀なくされた影響などにより、資金繰りに苦しむ企業が増加傾向にあります。今後の状況によっては、取引先の金融機関などに支払いや返済スケジュールの調整を依頼するケースも増えることが予想されます。実際に金融機関は、返済や支払いの猶予をしてくれるのでしょうか。

2008年9月に発生したリーマンショックでも世界経済が大きく落ち込みました。そのため、2009年12月、中小企業者等に対する金融の円滑化を図るために「中小企業金融円滑化法」が施行されました。これは、金融機関に対して資金繰りが苦しくなった中小企業の元本返済の猶予、つまりリスケ(リスケジュール)をするよう促す法律です。中小企業金融円滑化法は2013年3月に終了しましたが、それ以降も金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件等の変更に努めるべきということは、今後も何ら変わらないとする金融庁の取り組みをふまえ、貸し付け条件の変更や返済スケジュールの調整が行われています。

新型コロナウイルスの影響は、業種を問わず幅広く及んでおり、資金繰りに懸念が生じている企業が多く生じるようになりました。その対策のためには、中小企業金融円滑化法の枠組みを事実上維持し続けるだけでは、十分とはいえず、2020年3月には、金融庁から金融機関に対して以下の要請が行われました。

  • 事業者の業況や当面の資金繰り等について、事業者訪問や緊急相談窓口の設置などをして、きめ細かく実態を把握すること
  • 既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること
  • 新規融資について、各金融機関の緊急融資制度の積極的な実施(担保・保証徴求の弾力化含む)に加え、政策金融機関や信用保証協会によるセーフティネット貸付や、セーフティネット保証等の活用も含め、事業者のニーズに迅速かつ適切に対応すること
  • 事業者に対する支援を迅速かつ適切に実施できる態勢を構築すること

また、2020年4月には、支払期日が経過した手形について、話し合いのうえ、取り立てができることや、支払いができない手形・小切手や電子債権について、取引停止処分に対する配慮を行うことも要請しました。これらの施策により資金繰りに苦しむ企業は金融機関に相談することで、緊急融資制度や支払い・返済スケジュールの調整を受けられる場面が広がっています。

政府は、新型コロナウイルスに対するさまざまな融資制度を用意

政府が資金繰りに苦しむ企業に対して行っている施策は、金融機関に対する返済や支払いの猶予の要望だけではありません。融資を受けやすくするさまざまな制度も用意しています。その代表的なものが「政府系金融機関による融資」と「民間金融機関による信用保証付融資」の2つです。

政府系金融機関による融資

政府系金融機関による融資の中でも代表的なものは、「セーフティネット貸付」です。セーフティネット貸付とは、日本政策金融公庫が行う「経営環境変化対応資金」「金融環境変化対応資金」「取引企業倒産対応資金」と呼ばれる融資制度のことです。日本政策金融公庫は、100%政府出資の金融機関であるため、いわば公的な融資制度です。セーフティネット貸付は普段からありますが、今回は特別に売上高等の要件の一部が緩和されて、利用できる範囲が拡大されています。またこれとは別に、政府系金融機関による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」「新型コロナウイルス対策マル経融資」「危機対応融資」の仕組みも活用されています。最近1ヵ月の売上高が前年、または前々年同期と比べて5%以上減少などの一定条件を満たせば、設備資金および運転資金を低金利(一定要件を満たす場合は別途特別利子補給制度を利用することで実質3年間利子負担がない)、無担保で借り入れできるというものです。

民間金融機関による信用保証付融資

民間金融機関による信用保証付融資には、「セーフティネット保証」とこれとは別枠の「危機関連保証」とが用意されており、 経営の安定に支障が生じている中小企業者に対し、公的機関である信用保証協会が融資を円滑にするために、金融機関と事業者の間に入って、一般保証とは別枠で借り入れの保証 (最大2.8億円※) をするというものです。信用保証協会の保証があるため、金融機関も融資がしやすくなります。

セーフティネット保証の仕組も従来から存したものですが、新型コロナウイルスの影響の場合は、幅広い業種で影響が生じている地域(4号)または特に重大な影響が生じている業種(5号)について、本店所在地の市区町村に認定申請を行い、認定書を取得することで利用が可能です。現在、全都道府県および全業種が対象とされています。

また、最近1カ月の売上高が前年同月比で15%以上減少等する中小企業・小規模事業者に対しては、さらに別枠で信用保証(セーフティネット保証とは別枠で最大2.8億円)を受けられる「危機関連保証」の仕組みも用意されています(一部、保証対象外の業種があります)。

※2020年12月現在。

企業が交渉するのは負担になるケースがある

これまで紹介してきたような制度を活用することで、なんとか資金繰りが可能になる企業もあるでしょう。

しかし、ここで忘れてはならないのがこれらを実行したとしても、「必ず希望どおりにいくとは限らない」ということです。これらの制度は、利用のために必要な手続自体が複雑であったり、金融機関などと企業や個人事業主が直接交渉しなければならないものもあります。新型コロナウイルス感染の不安などがある中、金融機関の担当者と交渉することは、経営者にとっては大きな負担になると考えられます。

また、資金繰りが想定通りに行かなかった場合には、取引先に支払猶予を依頼しなければならなくなるといったケースも出てくるでしょう。

交渉時にトラブルが発生した場合には弁護士保険を活用しよう

金銭にかかわる交渉は、トラブルに発展する場合も少なくありません。資金繰りに奔走する中で、トラブル対応にまでリソースを割かざるえない状況になるのは大きな負担でしょう。そのため、こうした場合の対応は、専門家である弁護士に依頼した方がよいと考えられます。

弁護士に対応を依頼するうえで非常に重宝するのが「弁護士保険」です。弁護士保険とは、毎月の保険料を支払うことで弁護士へ相談・依頼する際に必要となる弁護士費用を補償する保険のことです。弁護士費用といえば相談内容や業務量によるが、着手金だけで20万~30万円程度は最低でも必要となります。特に今回のテーマのように、資金繰りをめぐって事業再生が必要になった場合には、これに要する費用は低く見積もっても100万円以上かかるでしょう。

しかし、弁護士保険に加入しておくことで、着手金等の費用が一部補償され、いざというときにお金のことを気にせず弁護士へ対応を依頼することができます。

事業をしていくうえで、今後もさまざまなリスクが想定されます。この機会に弁護士保険への加入を考えてはいかがでしょうか。

監修弁護士

伊山 正和 弁護士

弁護士

京都総合法律事務所 所属
立命館大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了 修士(法学)

主な役職等
・京都弁護士会 刑事委員会副委員長(2003.4~2011.3)
・京都弁護士会 日本司法支援センターに関する委員会副委員長(2004.4~2012.3)
・京都弁護士会 労働に関する委員会副委員長(2009.4~2010.3)
・京都弁護士会 法律援助基金運営委員会委員長(2009.4~2011.3)
・京都弁護士会 貧困問題対策連絡協議会PT座長(2010.4~2013.3)
・京都弁護士会 刑事委員会委員長(2011.4~2013.3)
・京都弁護士会 副会長(2013.4~2014.3)
・近畿弁護士会連合会 常務理事(2013.4~2014.3)
・京都弁護士会 「弁護士法による照会」委員会委員長(2015.4~2016.3)

注力分野
労務・労働問題を中心に企業活動や社会活動に伴う法律諸問題への対策・対応に注力。また交通事故案件についても、多数取り扱い。

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