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【後編】発信者情報開示請求とは?―手続・実例・弁護士費用

【後編】発信者情報開示請求とは?―手続・実例・弁護士費用

【前編】発信者情報開示請求とは?―手続・実例・弁護士費用 に引き続き、発信者情報開示請求のコラムのご紹介です。

目次

   
  • 4.どのような場合に発信者情報開示請求が認められるのか?
  •    
  • 5.裁判上の発信者情報開示請求が認められた例
  •    
  • 6.弁護士に依頼するメリットとデメリット ~発信者情報開示請求の弁護士費用~
  • 4.どのような場合に発信者情報開示請求が認められるのか?

    先程述べた名誉毀損の場合以外にも、例えば、下記のような権利侵害が明らかな場合にも発信者情報開示請求が認められます。

    (1)プライバシー侵害
    例えば、無断で、氏名等の本人を特定できる情報とともに住所、電話番号、誰であるかが判別できる顔写真、病歴、前科前歴などが晒されてしまった場合はプライバシー侵害による開示請求が認められる可能性が高いです。
    プライバシー侵害に当たる書込みとは、以下のような要件をすべて満たす書込みのことです。
    ①私生活上の事実又は事実と受け取られる可能性のある事柄であること
    ②一般人の感覚を基準にすれば公開されたくないと考える事柄であること
    ③一般的に未だ知られていない事柄であること

    (2)著作権侵害
    例えば、動画を違法アップロードされたり、他人のイラストを無断で転載されたりした場合は、著作権侵害による開示請求が認められる可能性が高いです。
    所謂「パクリ」については、イラストや文章の特徴が似通っている場合のすべてが著作権侵害に当たるわけではなく、著作物の本質的特徴部分が共通していることが必要になります。
    著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1号)のことをいい、自ら創作した動画・写真・音楽・イラスト・文章・プログラムなどがこれに当たり得ます。商標や特許などと違い、登録をしなくても要件を満たせば自然に著作権が発生します。

    5.裁判上の発信者情報開示請求が認められた例

    最近では「パクリ」や「トレス(トレース)」が取りざたされて“炎上”になることがありますが、反対に実際には行っていないトレースを誤って指摘したことに関して名誉毀損や著作権侵害が成立するとして、発信者情報開示請求が認められた事例を紹介します。
    <関係者>
    【情報の開示を求めた人】イラストレーターA氏
    【情報の開示を求められた人】サイト管理者
    【開示の対象者(発信者)】A氏の創作したイラストに対してトレースを指摘する書き込みを行った人物B氏ら

    <事案の概要>
    SNS上で、A氏のイラストと他のイラストと重ね合わせた画像を添付したり、本文に「トレス常習犯」等と記載した書込みに関して、名誉毀損、著作権・著作人格権違反(複製権及び自動公衆送信権並びに同一性保持権に対する侵害)、営業権侵害等が成立するとして、開示請求を行った事案です。
    これらの書込みに関して、サイト管理者側は、画像の掲載は「批評」(著作権法32条1項)や「公正な慣行に合致する」「引用」(著作権法32条1項)や「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条4項)に当たるので著作権侵害はないなどと主張して争いました。また、名誉毀損に関しては、トレースによって第三者の著作権を侵害するものである可能性を検証する意見ないし論評であって違法性阻却事由がないとは認められないと主張して争いました。

    <判決>
    裁判所は、B氏らのIPアドレス等を開示することを認めました。

    <評価>
    裁判所の認定では、正当な「批評」や「引用」に該当するかどうかについて詳細な検討を行ったうえで開示請求の可否を判断しています。また、トレースしていないことの判断に関して、A氏が自筆でイラストを描画する映像なども証拠として検討を行っています。A氏側としてきちんと証拠を準備して、十分な主張立証を行ったことが開示に繋がったといえるでしょう。

    6.弁護士に依頼するメリットとデメリット ~発信者情報開示請求の弁護士費用~

    これまで見てきたとおり、一般の方にとっては発信者情報開示請求は現状まだまだ複雑で難易度の高い手続と言わざるを得ません。
    そこで、発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリットデメリットや、なるべくデメリットを回避する方法もご説明します。


    (1)弁護士に依頼するメリット

    弁護士に依頼するメリットとしては、おおきく下記の3点が考えられます。
    ①手続に習熟した専門家に手続を任せることができる
    ②結果として、開示請求が認められる可能性が高まる
    ③弁護士しか利用できない手続もある


    ①手続に習熟した専門家に手続を任せることができる
    まず、手続に習熟した専門家に手続を任せることができるというメリットが一番大きいでしょう。
    発信者情報開示請求は損害賠償請求訴訟において主張すべき法的論点の大部分を先に出して主張立証することが必要になる点や、Twitter, Inc.といった外国法人に対して訴訟提起が必要になる点など様々な手続上のハードルがあります。
    また、裁判上の手続を行う場合、最終的に発信者の氏名などの情報が開示されるまでには、半年以上の期間と手間がかかってしまいます。専門家に任せることで、手続を行う心理的・労力的・時間的な負担を節約することが出来ます。

    ②結果として、開示請求が認められる可能性が高まる
    また、専門家に任せることで、結果として、開示請求が認められる可能性が高まるというメリットもあります。開示請求には、通信プロバイダにおける通信ログ情報の保存期限というタイムリミット(短い場合は書込日から約3か月)も存在します。せっかく開示請求ができる要件がそろっていたとしても、手続に不慣れで時間がかかることによってログの廃棄により開示請求が成功しないこともあるのです。

    ③弁護士しか利用できない手続もある
    次に、弁護士しか利用できない手段をとれるというメリットもあります。例えば、サイト管理者から「電話番号」の情報だけが得られた場合、弁護士会照会という手続を用いることによって短期間で氏名や住所といった情報までたどり着くことが出来ます。そのため、弁護士に相談すれば弁護士資格者しか利用できない手続も含めて、臨機応変に最適な手続を検討してくれるでしょう。


    (2)弁護士に依頼するデメリット ~発信者情報開示請求の弁護士費用~

    ア 開示請求の弁護士費用
    弁護士に依頼するデメリットは、弁護士費用の負担があることでしょう。
    開示請求の弁護士費用に関しては、弁護士事務所ごとや案件の難易度ごとに違ってきますが、目安として、下記ようになっています。

    つまり、裁判手続がスムーズに進んだとしても、発信者の情報が判明するまでには合計で100万円近い弁護士費用がかかってしまうということです。
    開示請求後の損害賠償請求訴訟で勝訴しても、慰謝料額は数十万円、多くても100万円程度にとどまる可能性が高いです。そうすると、弁護士費用の総額が慰謝料額を上回ってしまい、結局“赤字”になるリスクがあるのです。

    イ 【解決案】開示請求の弁護士費用を発信者に対して請求する方法
    「“赤字”になるのであれば辛いけれど開示請求を行うことは控えようかな……」と考える方も多いでしょう。そうなると、被害者側に泣き寝入りさせることになってしまいます。
    これを解決する案の1つが、開示請求にかかった弁護士費用を発信者に対して請求する方法です。
    最近では、開示請求にかかった弁護士費用を「調査費用」という項目で損害として発信者に対して請求することが認められた裁判例も多数見られるようになりました。
    例えば、【東京高判令和 3年 5月26日/ウエストロー・ジャパン】では、開示請求にかかった弁護士費用合計88万5600円の全額の損害賠償請求を認めています。その理由としては、「本件各記事の投稿者を特定するための費用は,本件各記事の投稿者に対して,不法行為に基づく損害賠償請求をするために不可避的に生じた費用であったというべき」として、開示請求の難しさや迅速性が要求される点から、「専門的知識を有する弁護士に対して本件各記事の投稿者を特定するための手続を委任するのは至極当然であり,かつ,また,やむを得ないものであった」として、「本件各記事による名誉毀損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当」と判断しています(鍵括弧内判決文引用)。 このような請求が認められれば、開示請求にかかる弁護士費用分については、最終的に被害者の負担を無くするか又は小さくすることができるのです。

    ウ 開示請求の弁護士費用と損害賠償の弁護士費用は別に発生する
    気を付けるべきなのは、「調査費用」として損害賠償が認められるのは開示請求(=ウェブ管理者や通信プロバイダに対する請求)に関する弁護士費用の部分だけであることです。開示請求の弁護士費用とは別に、損害賠償請求に関する弁護士費用も発生します。その額は、旧日弁連基準によると着手金は訴訟で請求する金額の8%(※)、報酬金は請求が認められた金額の16%(※)です。 ※金額によってパーセンテージは変動します。

    そして、不法行為に関する判例【最判昭和44年2月27日/民集23巻2号441頁】に従って、「損害賠償の弁護士費用」の分については、請求が認められた金額の10%までの弁護士費用しか損害と認めらません。ですので、残りの部分については、請求する側が負担しなければなりません。

    それでも、開示請求の弁護士費用について発信者側に負担させることが出来れば、訴訟をしたのに赤字になってしまう可能性は小さくすることが出来るでしょう。
    発信者情報開示請求は時間との闘いになることが多いですから、インターネット上での中傷被害にあわれた場合は、最終的に開示請求を行うべきかの判断も含めて、まずはなるべく早期に弁護士に相談されるとよいでしょう。

    監修弁護士

    松田 優 弁護士

    弁護士

    香川総合法律事務所勤務弁護士
    東京大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了
    東京弁護士会労働法制特別委員会、同法教育部会所属
    重点業務は、企業法務(不動産・建築、IT・システム中心)、労働関連法、区分所有関連法(管理会社・管理組合中心)など。

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