会社に突然届く申立書
突然、裁判所から郵便で封筒がとどきます。封筒をあけると、「期日呼出状及び答弁書催告」や「申立書」等のたくさんの書類がはいっています。
期日呼出状には、30日程度先の第1回期日に出頭することと、第1回期日の7日ほど前(郵便が届いてから2週間程度先)までに「答弁書」という会社側の主張を記載した書面を提出するべきことが記載されています。
申立書をみてみると、従業員側の一方的な主張が記載されており、これだけ読むとまさに会社がブラック企業のようです。
ただ、ここまでは通常の訴訟とほとんど変わりません。
反論のチャンスはわずか
裁判所の心証(意見)が開示されるまで1年程度かかることもある通常の訴訟手続きと違い、労働審判は、原則として、3回の期日で手続きを終了させる手続きです。
労働審判において、裁判所(労働審判委員会)は、第1回期日までに双方から提出される書面に基づいておおよその方向性を決めていることが多く、第1回期日で会社側双方から補足的に事情を聴取した上で、多くの事案では、第1回期日からすぐに解決に向けた話し合いの手続きが行われます。労働審判の約7割が話し合いの手続き(調停)で解決します。
話し合いで解決できない場合には、裁判所(労働審判委員会)から審判が出されます。審判に不服がある場合は異議申し立てを行うことができ、通常の訴訟で争われることになります。ただ、訴訟で争ったとしても労働審判で出された方向性を覆すのが困難なことも多くあります。そのため、労働審判の第1回期日までに提出する書面が極めて重要なのです。
労働審判員から会社側の問題点の指摘をうける
労働審判では、職業裁判官以外に、2名の労働審判員が労働審判委員として手続に参加します。2名の労働審判員のうち1名は労働者側の立場で労働紛争の解決に携わった経験がある人、残りの1名は使用者(会社側)の立場で労働紛争の解決に携わった経験がある人です。
労働審判員からは法律的な指摘に留まらず、会社が行ったことの問題点をあれこれ指摘されますから、事前準備をしっかりとする必要があります。
重要かつ大変な答弁書作成
会社に申立書が届いてから答弁書提出まで2週間程度しかないにもかかわらず、提出する答弁書によって裁判所(労働審判委員会)の判断の方向性が決定します。
そのため、短い期間で事案のポイントを理解して、見落とされている重要な事実や資料の有無、資料の準備や、関係者へのインタビューを行い、焦点を絞りつつも主張を漏れなく記載した答弁書を作成する必要があります。
そのため、会社にとって一番重要かつ大変なのは、申立書が届いてから第1回期日までの間です。
守備力が大事な労働審判
労働審判では、紛争を早期に解決するため、裁判所(労働審判委員会)から、会社が従業員にいくらかの解決金を支払うという解決案が示されることが多いです。そのため、一切お金を払う必要がないと考える会社としてはなかなか紛争の主導権をとれません。
しかし、入念な事前準備をしておけば、労働者の主張に対して堂々と反論することができ、裁判所(労働審判委員会)から会社の主張を汲んだ解決案が出されることもあります。
そのため、できるだけ早い時期から準備をすることが大切になります。労働審判は、会社に事前準備の重要性を痛感させる手続きといえます。