弁護士保険コラム Column

あおり運転の法的問題点と予防法・対処法

あおり運転の法的問題点と予防法・対処法

東名高速のあおり運転とその判決

東名高速道路下り線で2017年6月5日、あおり運転を受けて停車させられた夫婦がトラックに追突され死亡したという痛ましい事件をきっかけに、「あおり運転」が社会問題となっています。


同事件については、第一審である横浜地方裁判所が2018年12月14日、あおり運転を行った加害者に対し、危険運転致死傷罪の成立を認め、懲役18年の判決を言い渡しました。
しかし、加害者側は、この判決を不服として、2018年12月21日に控訴しました。控訴審(第二審)である東京高等裁判所は、2019年12月6日、危険運転致死傷罪を認めた横浜地裁の判断を是認しつつも、横浜地裁の裁判手続きに不備があったとしてもう一度地裁に審理判断させるため、事件を第一審に差し戻す判決を言い渡しました。
そのため、本件については今後もう一度、横浜地裁で裁判のやり直しがなされることになります。

あおり運転の法的問題点

「あおり運転」の法律上の定義はありません。一般に、走行中の車に対する威嚇のための運転行為や嫌がらせや報復のための運転行為全般を指して、「あおり運転」といわれています。あおり運転の具体的な態様としては、車間距離を異常に狭める行為や、執拗な追い回し行為、無理な割り込み行為をはじめ、ハイビーム、パッシング、クラクション、幅寄せ、など多岐に亘ります。
そのような、「あおり運転」については、以下の犯罪が成立する可能性があります。

道路交通法違反

車間距離不保持違反や10類型の行為を行うと、妨害運転罪(117条の2の2第1項11号、117条の2第1項6号)に該当する可能性があります。法定刑は、高速道路で停止させるなど「著しい交通の危険」を生じさせた場合は五年以下の懲役又は百万円以下の罰金、「交通の危険を生じさせるおそれ」がある場合は三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金とされています。そのうえ、行政上、即時免許取消、違反点数25点から35点、欠格期間は2年から10年と極めて重い処分がなされます。

暴行罪

車間距離を異常に狭める行為や極端な幅寄せ行為については、暴行罪に該当する可能性があります。法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とされています(刑法208条)。

過失運転致死傷罪

あおり運転によって、人を怪我させたり死亡させたりした場合には過失運転致死傷罪に該当する可能性があります。法定刑は、7年以下の懲役または禁固もしくは100万円以下の罰金とされています(自動車運転死傷行為等処罰法5条)。

危険運転致死傷罪

これまでも特に危険なあおり運転で死傷の結果が生じた場合は、危険運転致死傷罪により取り締まられてきました。2020年7月2日施行の改正法では、新たに前方急停止・急接近の類型が追加され、よりあおり運転に対する取り締まりが強化されました。法定刑は、被害者が負傷した場合は15年以下の懲役、死亡した場合は1年以上20年以下の懲役とされています(自動車運転死傷行為等処罰法2条)。

あおり運転の予防法・対処法

事前の予防法

あおり運転をされないように事前にできる予防法としては、例えば、以下の方法があります。

ドライブレコーダーの搭載

あおり運転の予防として有効な方法は、ドライブレコーダーを車に搭載しておくことです。特に、あおり運転は後方からなされることが多いので、後方にもドライブレコーダーを搭載しておくことが効果的です。

ステッカーの設置

「弁護士保険契約済」や「ドライブレコーダー録画中」などのステッカーを、車後方の見やすい位置に貼っておくことで、あおり運転加害者に対する心理的な抑止効果が期待できます。

無理な運転をしない

あおり運転は報復行為としてなされることも多く、また報復的なあおり運転の場合には加害者がより感情的になってしまいます。そこで、当たり前のことではありますが、強引な割り込みはしない、追い越されても追い越し返さない、などの無理のない安全な運転を心がけることで不要なトラブルを避けることができます。

事後の対処法

あおり運転をされてしまった場合の事後的な対処法としては、例えば、以下の方法があります。

相手にせず道を譲る

あおり運転にあった場合には、相手にせず、冷静に道を譲るなどの対応をとるべきです。あおり運転に対してあおり返すような行為はもってのほかです。
また、あおり運転から逃げるために自分が速度超過になることも絶対に避けるべきです。自分自身が大事故を引き起こす可能性がありますし、平成26年の札幌高裁の判決においては、あおり運転から逃げるために速度超過になってしまった場合であっても犯罪となる旨判断されています。

安全な場所で停止する

道を譲ろうとしても執拗につきまとわれた場合には、安全な場所で停止するべきです。停止する場所としては、パーキングエリアやサービスエリアなど、駐車場があり、かつ、人目に付く場所が理想的です。そのような場所まで運転することが難しい場合には、路肩などのできる限り後続車の追突可能性が低い場所に停車します。

車外に出ず警察に通報する

自車を停止したのち、相手が車から降りてきた場合には、ドアも窓もロックして、決して車外に出てはいけません。相手が怒鳴ってきたとしても、直接話をする必要はなく、すぐに110番通報して警察を呼ぶべきです。

スマホ等での撮影

同乗者がいる場合には、あおり運転をされている状況や停車後に怒鳴られた状況について録音録画すべきです。ドライブレコーダーを搭載している場合であっても車の側面などの死角を撮影することは難しいですし、ナンバープレートを鮮明に録画できているとは限りません。

あおり運転により損害を被った場合の法的措置

不幸にもあおり運転によって損害を被った場合には、弁護士と相談し、民事手続きとしての損害賠償請求や刑事手続きとしての被害届けの提出、刑事告訴などの法的措置をとることが可能です。
民事手続きであっても、刑事手続きであっても、法的措置をとるためには、証拠が必要不可欠です。そのためにも、前述のドライブレコーダーの搭載やスマホ等での撮影が重要となってきます。

この記事の監修弁護士

香川 希理

弁護士

香川総合法律事務所代表弁護士。
マンション管理士・管理業務主任者等の資格を保有。
主な取扱分野は不動産関係、コンプライアンス関係(反社会的勢力対応、不当要求対応等)。
著書に「企業による暴力団排除の実践(商事法務)」、「民事介入暴力対策マニュアル第5版(ぎょうせい)」。

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