2011年、私は当時まだ日本にはなかった「弁護士保険」の開発にたずさわることになりました。「弁護士保険があれば、もっと暮らしやすく、生きやすくなる人がたくさんいるはず」。その思いで、弁護士保険を日本に広めていく決意をしました。
日本も「法的トラブルを早期解決する保険」が必要な時代に
日本で生じる法的トラブルは、大小あわせると年間1,400万件におよぶと推定されます。これだけ多くのトラブルが毎年発生しているのに、過去に一度でも弁護士に相談した経験がある人の割合は、たったの2%程度です(※)。
日本の場合、普通の生活をしている一般の人にとって、弁護士に相談するということは勇気がいるものです。トラブルに遭ったときに、弁護士に相談するという選択肢がない人も多いのではないでしょうか。
弁護士保険は、どんな人でも気軽に弁護士のサポートが受けられるようにするためのツールです。保険というのは、大勢が少しずつ負担することで、トラブルに遭った人を助ける相互扶助(そうごふじょ)の仕組みです。弁護士保険もこれと同じで、「弁護士のシェアリング・エコノミー」とも言えます。
弁護士保険をどういう人に使って欲しいかと聞かれたら、「すべての人に使ってほしい」とお答えしています。
弁護士利用をさまたげる2つの問題 「費用」と「使い方がわからない」
日本では、弁護士が身近な存在とは言えないのが現状です。一般の人が弁護士に頼るのは、法的なトラブルが深刻化し、自分の力だけでは解決できないときに限られます。
理由は大きく2つあって、ひとつは「経済的な理由」です。弁護士に相談・依頼した際にかかる費用には、着手金、報酬金、手数料、法律相談料などさまざまあり、最終的に高額になるケースが少なくありません。問題解決までの費用があらかじめ算定しにくい点も、不安に感じる人が多い理由でしょう。
もうひとつの理由は「弁護士の使い方のわかりにくさ」です。そもそも弁護士に一度も相談したことがない人にとって、弁護士へ連絡するだけでも敷居が高いものです。そのうえ、弁護士にも専門分野があり、得意としていることが異なります。自分が抱えるトラブルに合う弁護士をどのように探せばいいかわからない、という方は多いのではないでしょうか。
「法的トラブルと弁護士」の関係は、「病気と医師」の関係に似ています。どちらも放っておくと手遅れになりやすいですが、早期に相談することができれば、スムーズに負担少なく解決することが可能です。
病気にかかったときに医師に診てもらうように、法的なトラブルに直面したときには弁護士に相談すればいいのです。しかし現状では、多くの人が医師の診察は受けても、弁護士には相談しません。その理由のひとつが「保健や保険が存在しないから」だと思います。だからこそ、弁護士保険が外国で普及している事実も踏まえ、「これは日本でも必要だ」と思ったのです。
誰でも手軽にスムーズに法的トラブルに対処できるようにするのが、弁護士保険開発の目的です。
病気を医師に相談するように、弁護士に気軽に相談できる社会をつくりたい
法的トラブルは時間が経過するほど、感情的なぶつかり合いによって和解ができにくくなり、法的紛争に重要となる証拠も手に入りづらくなります。結果、トラブルが悪化し、解決が難しくなりやすいのです。
弁護士保険は、法的トラブルに見舞われたときの費用を補償し、経済的な負担を軽減します。どの弁護士に相談したら良いかわからない人に対しては、弁護士探しのサポートも行います。突然のトラブルに安心して対処できる環境を整えることで、深刻な状況になる前にトラブルを解決することを可能にするのです。
費用節約のため、弁護士に対処を依頼せず、自分で対処しようとする方もいますが、それが正しいとは限りません。トラブルの相手方との交渉は、精神的・時間的に大きな負担になるからです。
一方、弁護士の立場からしても、「法的トラブルの初期に相談してもらえれば、幾通りもの対応策・解決策を示せただろうに、トラブルが深刻化した後では手段は訴訟に限られてしまう」という口惜しさがあります。訴訟はお金も時間もかかります。示談交渉などにより訴訟を避けられるならば、関係者すべてにとって合理的なのです。
弁護士に任せることのメリットは、起こってしまったトラブルを解決できるだけではありません。弁護士が関与することで、相手方に問題の重大性と本気度が伝わるため、いい加減な対応をされにくくなります。依頼者に不利な証拠を減らし、有利な証拠を集められる実利もあります。
さらに、弁護士は常に裁判を見据えて、依頼者に有利な結果をもたらすために尽力してくれます。専門的な知識に基づいて依頼者の権利を守ってくれるのですから、これほど心強い味方はいないでしょう。
「病気になったら医師の診察を受けるように、トラブルになるかも知れないと感じたら早めに弁護士に相談する」。弁護士保険というツールを広く認知してもらうことで、誰もが気軽に弁護士にアクセスできる社会の実現に貢献することが私たちの目標です。
※参考:日弁連アンケートに基づきエール少額短期保険が推定