「弁護士保険の会社を起業する」という新たなる挑戦

「弁護士保険の会社を起業する」という新たなる挑戦

エール少額短期保険株式会社 代表取締役社長・榛沢知司
社会の「一隅を照らす」存在となるため、私はエール少額短期保険の起業を決意しました。その経緯についてお話します。

エール少額短期保険の基本理念「一隅を照らす」に込めたもの

弊社の経営の基本理念は、「法的トラブル解決を総合的に支援する保険会社として、顧客の信頼を獲得し、社会の『一隅を照らす』存在となる」ことです。

「一隅を照らす」というのは、比叡山延暦寺を開いた最澄の言葉です。一人ひとりが自分の持ち場で全力を尽くし、その場所を明るく照らせば、社会全体が明るくなるという意味があります。

私がこの言葉に初めて出会ったのは、社会人になった直後でした。素晴らしい言葉だと感動したその思いは、35年を経た現在も変わっていません。個人の生き方としても、企業の経営理念としても、指針を示してくれる良い言葉だと思います。私が会社を興して経営理念を掲げるとしたらこれしかないと思い、決めました。

エール少額短期保険は、弁護士保険という保険制度を通じて社会に貢献するものでありたいと考えています。ここで、私がどうして起業をすることになったのか、そのきっかけと苦労したことなどをお話ししましょう。

サラリーマンからコンサルタント、そして偶然の出来事に導かれ起業へ

私は大学で数学を専攻し、大手の生命保険会社でアクチュアリーとして、商品開発や収支分析、資産運用の企画、リスク管理などを担当していました。アクチュアリーとは、保険商品のリスク分析や保険会社の負債評価などを担当する専門職です。

大学卒業後すぐにその生命保険会社に入社し、ずっとサラリーマンをしていたのですが、いつからか「このまま他人から指示を受けるだけでビジネスマン人生を終えるのは惜しい」という想いが募っていました。「生活の糧を得るためだけでなく、社会にとって価値があると思える仕事、自分にしかできない仕事をするために貴重な時間を費やしたい」。そう思うようになり、40代半ばで生命保険会社を辞めて独立しました。

独立後は、すぐに小ビジネスを立ち上げ、経営実務を体験しました。そのかたわら、知人の紹介で保険数理に関するコンサルティングの仕事をすることになりました。具体的には、中小の保険事業者向けに保険商品の設計をしたり、新たに保険事業を立ち上げたいという事業者向けに、金融庁への事業登録の支援をしたりする仕事です。

このコンサルタント時代に、私が日本で初めて単体型の弁護士保険を作ることになったのです。

その後、この経験を活かして起業することになったのですが、起業を決心するまでには迷いもありました。「本当に自分にできるのだろうか」ということです。

その一方で、「いろいろな偶然が重なって、弁護士保険の会社を立ち上げるかどうか迷っている。これは偶然たどり着いた立ち位置だが、今ここにいる自分にしかできないことを諦めたら、後悔が残るかもしれない。あとどれだけ人生のチャレンジの時間が残されているだろうか……」という思いも強く湧き上がってきました。

やがて、起業しない理由を探すより、どうやったら実現させることができるのか、その方法を考えようという気持ちになったのです。

予想以上に大変だった「ヒト・モノ・カネ」

起業の苦労は、どんな起業家にも共通することだと思いますが、必要な「ヒト、モノ、カネ」をどのようにそろえるか、という点に集約されます。

ヒト:支援者と社員

「ヒト」というのは、起業の支援者と、保険事業の実務を担う社員のことです。保険事業は軌道に乗ってしまえば安定感のあるビジネスですが、起業当初に多くの資本を要するうえ、運営コストが小さくないため、黒字化まで時間がかかります。

起業の力になろうとしてくれた人は何人もいましたが、皆、少し関わった後で、「うまくいかない」と言って去って行きました。

社員も、起業後しばらくは頻繁に入れ替わっていました。ベンチャー企業の社員は一人が何役もこなす必要があるのに、採用のミスマッチを繰り返して、年がら年中採用面接を行っているというありさまでした。

事業を軌道に乗せることに苦労しているなかで、会社への不満や将来への不安を口にする社員が後を絶たず、結果的に短い出会いと別れを多く経験しなければいけなかったことは、私にとって大きなストレスでした。

「ベンチャー企業とはそのようなものだ」と慰められたりします。その後、事業が軌道に乗るにつれて、社員は辞めなくなりました。残念ながら会社とうまくマッチせずに退職して行った元社員の方々も、どこか別の分野で活躍していればうれしいと思います。

モノ:保険商品の開発

弊社にとって「モノ」というのは、保険商品を開発し、少額短期保険の事業者として金融庁の登録を受けることです。

通常、少額短期保険事業の起業は、このハードルが高くて苦労するのですが、私はコンサルタントとして何度も経験済みだったので、ここでつまずくわけにはいきません。そして日本で初めての、事業者向けの弁護士保険商品を開発したのです。

このとき、保険数理的にかなりの新規性を盛り込んだこともあり、監督当局との折衝には個人向け商品のとき以上に苦労しました。2015年10月に会社を設立してから、ほぼ自分の力だけを頼りに調整を続け、約1年8ヶ月後の2017年6月、関東財務局から登録番号をもらうことができました。

カネ:事業を始めるための資金集め

そして何より苦労したのは「カネ」、つまり事業を始めるための資金集めです。当然ながら、私自身に保険事業を起業するに足る自己資金があるわけもなく、始めようとしている事業に共感してくれる出資者を探す必要がありました。

保険会社はどんなに小さな事業者であっても、ソルベンシー・マージン基準という純資産についての規制があり、常にその基準を超える純資産を確保しておかなければなりません。そのため、創業支援融資制度などの借入れではなく、「資本金」が必要でした。

ところが、私は起業するまで一度も資金集めをやったことがなかったので、どこから手を付けていいのか、何もわからない状態からのスタートでした。自分で作った事業計画書を持って、どれだけの人に会ったでしょう。

最終的にはエンジェル投資家やベンチャーキャピタルに加え、業務提携先などから、合計で5億円以上の出資を受けることができたのですが、私にとってはこの資金集めが、起業にあたって最大の苦労でありピンチだったかもしれません。

「社会に必要なのに今はまだないこと」を少しでも実現するために

現在の目標は、短期的には弁護士保険の認知度を上げて、その必要性をご理解いただくことです。そのための活動、事業運営に邁進していきます。ネット被害や子どものいじめなど、特定分野に強い弁護士との連携も大事な視点ととらえています。

長期的には、法務サービスに重点を置いたうえで、金融機能としての保険の可能性を追求していきたいと思っています。社会に必要なことでありながら今はまだないことを、少しでも実現していきたいと考えています。



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