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契約書に関する大きな誤解

契約書に関する大きな誤解

弁護士業務をしていると、契約書に関してよく受けるご質問があります。

「契約書なんてインターネット上にある契約書式の雛形を使えばいいんじゃないですか?」

というものです。

しかし、インターネット上にある契約書式をそのまま使うことは絶対にお勧めできません。
契約書はゼロサムゲームです。どちらかが得をすればどちらかが損をすることになります。
ある契約条項が、一方にとって有利な内容であれば、その条項は反対当事者にとっては不利な条項である、ということになります。
そして、インターネット上の契約書式には、どの条項が自分に有利で、どの条項が自分に不利かは書いていません。

そのことに気づかないまま、自分に不利な契約書式を使用しているケースが散見されます。

契約書は単に作成するだけでは意味がありません。
「できる限り自己に有利な契約書を作成すること」に意味があるのです。

自己に有利な契約書を作成する基本的なポイントとして、以下の三点があります。

      (1)強行規定に違反しないこと
      (2)できる限り具体的に記載すること
      (3)権利と義務を意識すること

上記三点について、順を追って説明します。

(1)強行規定に違反しないこと

自己に有利な契約書を作成する必要があると言いましたが、自己に有利であれば、どのような内容であってもよい、というわけではありません。

法律には、当事者の合意によって排除できる規定である「任意規定」と当事者の合意によっても排除できない規定である「強行規定」の二種類があります。

強行規定に反する契約をしても無効となります。

例えば、「相手方に奴隷となることを約束させる」旨の契約は、強行規定である民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」に反するため、無効となります。

一方で、例えば請負契約の代金支払時期について、法律上は、「仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。」(民法633条)とされていますが、当事者の合意で前払いや後払いに修正することが可能です。

民法633条は任意規定であるため、当事者の合意が優先されるのです。

したがって、「任意規定については自己に有利になるように修正し、強行規定には違反しない」ということが重要となります。

(2)できる限り具体的に記載すること

自己に有利になるように意図して作成した条項であっても、抽象的すぎて意図した効果が発生しなければ意味がありません。抽象的な条項は、当事者の行き違いを招き、後に紛争となるリスクを高めることにもつながります。

具体的な条項を作成するポイントは、ビジネス文章作成の基本と同様に、5W1Hを意識することです。

①When:いつ、② Where:どこで、③Who: 誰が誰に対し、④ What:何を、⑤How:どのように、という点をできる限り明確にする必要があります。

契約書においては、特に「③Who: 誰が誰に対し」という点を明確にすることが重要となります。

「甲は乙に対し」なのか、「乙は甲に対し」なのか、「甲及び乙は、相互に」なのか、一つ一つの条項の主語を確認することが重要です。

(3)権利と義務を意識すること

契約とは、当事者間の合意のうち、当事者間に権利義務の関係を生じさせるものをいいます。

したがって、契約書と通常の文書の最大の違いは、契約書は「法的な権利と義務が発生する文書である」ということです。

例えば、売買契約であれば、買主は「目的物を取得する権利」を得る反面、売主は「目的物を引き渡す義務」を負うことになります。ただし、別の側面では、買主は「代金を支払う義務」を負う反面、売主は「代金を取得する権利」を得ることになります。

このように、一つの契約書の中に、複数の権利義務関係が定められることになります。

したがって、一つ一つの契約条項について、どちらの当事者に権利を与え、どちらの当事者に義務を課すものなのか、慎重に確認する必要があります。

まとめ

以上、自己に有利な契約書を作成するための三つの基本的なポイントをご説明しました。

上記説明はあくまで基本的なものであり、実は「あえて強行規定に反する条項をそのまま残しておく」「あえて抽象的な記載をそのままにしておく」などの高度な戦法も考えられるところです。

しかし、そのような戦法はあくまで応用的なものであり、まずは基本を押さえることが肝心です。

上記で「戦法」という言葉を使いましたが、契約書作成はまさに後の裁判の「前哨戦」ともいえるものです。

インターネット上の契約書式を用いる、相手方から差し出された契約書について内容を確認しないまま署名押印する、などの行為は「前哨戦」を不戦敗するようなものです。

勿論、裁判などにならず友好的に取引ができることが望ましいことは言うまでもありません。しかし、万が一の時のために、契約書は作るものです。

本記事をお読みになった皆様においては、これを機会に契約書の重要性を再認識して頂ければ幸いです。

監修弁護士

香川 希理

弁護士

香川総合法律事務所 代表弁護士。
明治大学法学部、立教大学大学院法務研究科卒業後、2010年弁護士登録(東京弁護士会)、2013年香川総合法律事務所設立。企業法務を専門とし、上場企業から中小企業まで多種多様な企業の顧問をしている。主な役職としては、東京弁護士会マンション管理法律研究部、公益財団法人澤田経営道場企業法務講師など。主な著書としては「悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル」(民事法研究会)、「マンション管理の法律実務」(学陽書房)、「中小企業のための改正民法の使い方」(秀和システム)など。

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